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【罪悪感があるからよ。】

しばらくしてから、また、コトハはゆっくり「基礎知識の講義」を始めた。

「実際、お兄ちゃんの体の中でも、その当たり前で、普通のこと、つまり、生かし合いと助け合いが、毎日、行われているの。

例えばお兄ちゃんが御飯を食べると、お兄ちゃんの頭や手や足が、胃袋に献血するの。

お兄ちゃん、知ってた?お兄ちゃんの頭や手や足が、『胃袋さん、消化、ご苦労様!これっぽっちしかないけど…。ボクの血液を使って。』って言って、自分の血液を胃袋さんに献血しちゃうのよ。これって、凄くない?

そうやって、体の中でも各器官がお互いに助け合って、生かし合っているの。そして、その助け合いや生かし合いを、当たり前にふつう~に、やってるのが…。誰だか分かる?

それが、お兄ちゃんなの!お兄ちゃんも、捨てたもんじゃないわね~。」と、僕の答えを待つこともなく、コトハは淡々と話し続ける。

僕は、コトハの話についていけてない…。

確かに頭では、分かるような気がする。

僕の思った通りに、コトハが動き、コトハが思った通りに、僕が動いているのかもしれない。だから、僕とコトハは一つ、と言えなくはないのだろう。

確かに、植物がなくなれば、僕も、動物も生きていけない。だから、僕も動物も植物も一つ、と言えなくはないのだろう。

確かに、食べたものを消化しているのは、胃袋だけではない。他の各器官も、消化するために血液を、胃袋に提供している。だから、胃袋も体の各器官も一つと言えなくはないのだろう。

それが現実。そう考えると、何故か胸の奥が温まるような安堵感や平和な気持ちを感じる自分もいる。

でも、何故か、素直にコトハの言葉を受け入れられない。腹の底から「確かにその通りだ」とは思えない。

「何故だろうか?」

その時、コトハが言った。

「罪悪感があるからよ。」

セミの声が、また、聴こえなくなった。

 

 

つづく