続・幸せの方程式(17)
【潜在意識 ⑦ タコ墨(すみ)】
シャンカールは言う。
「彼はあちらの世界で優秀な内科医だった。
医大を卒業後、僅(わず)か5年で内科クリニックを開業するというスーパードクターだ。
彼はクリニックに最新鋭の医療器具を揃えた。
自分の内科医としての腕前と最新鋭の医療器具があれば、間違いなく地域一番のクリニックになることを彼は確信していた。
そして、自分に相応しい立派なマイホームと高級外車も購入し、開業時には、2億円近いローンを抱えた。
しかし、患者さんは思った以上に集まらなかった。
そこで、彼は、ローンの返済資金回収のために、診療報酬の点数稼ぎに専念し始めた。
患者さんの病状がそれほど深刻でなくても、『一応、検査しますね。』と言って、患者さんにできるだけたくさんの検査を受けさせ、『念のため。』と言っては、多様多種の予防摂取を行い、薬は3日分で十分な場合でも7日分を処方した。
必要以上の検査。
必要以上の処方箋。
必要以上の注射。
薬や注射、放射線を必要以上に投与することが、患者さんの害になることを承知しながらも、彼は自分の収入を優先してしまった。
その結果が、あれだ。
だから、ああして、患者さんたちに恨まれているのだよ。」
よく見ると猛禽は普通の猛禽ではない。
人間の顔をしている。
しかも、その表情には、怒りや憎しみ、恨みが込められている。
と、その時、男が大きな声で叫んだ。
「俺はもう二度とやらねえ!
本当に悪かったあ!
許してくれえ!」
男は泣きながら叫んでいた。
すると、男の目の前に、真っ黒い物体が現れた。
それは、海の中をゆったりユラユラ泳いでいたタコが、自分に向かって来る巨大ザメを200メートル前方に発見し、慌(あわ)ててリラックスモードから戦闘モードに切り替え、お腹に溜めておいた真っ黒なタコ墨(スミ)を全身の力を込めて、一滴残らず吐き出したかのような、真っ黒い物体だった。
そして、巨大ザメが、「一刻も早く空腹を満たさなければ、オレは死ぬかもしれない!」と心の中で叫びながら、墨を吐いても逃げ切れないタコを一口で丸呑みし、自分の喉の幅より大きいそのタコを、喉を無理やり押し広げて通過させ、空っぽになっている自分の胃袋に「ゴクリッ」と呑み込んでしまうように、
男の目の前に現れた真っ黒い物体は、男を丸呑みした。
そして、男も、真っ黒いタコ墨のような物体も、スーッと静かに消えていった。
「な、な、何だ?あれは?」
僕がそう思うと、シャンカールが応えた。
「ブラックホール。
別名を産道とも言う。」