続・幸せの方程式(3)
第一章 有イコール無
【 有=無 ① 海 】
僕の目の前には、真っ青な光景が広がっている。
青というよりは、青色に黒を混ぜたような、濃厚な藍色の液体の中に僕はいる。
僕は、上下、前後、左右に、ゆったりと穏やかに揺れている。
ゆらりゆらりと揺れる母親の背中におぶさりながら、「ね〜んね〜ん。ころ〜り〜よ。おこ〜ろ〜り〜よ〜。」という子守唄を聴いていた時のような安堵感を覚える。
「これは、きっと、海の中だ。」と、僕は直感的に確信した。
その直感を揺るぎないものにするごとく、僕の耳には、ザブウーン、ザブウーン、という波の音が入って来た。
その波の音の間には、ブクブクブクブク、という水の弾ける音も混ざっている。
波はとても穏やかだ。
ゆっくりと。ゆったりと。
ザブウーン、ブクブクブクブク、ザブウーン、ブクブクブクブクと子守唄のようなさざ波が僕の気持ちを安らかにする。
僕は、心地良い波の揺れとさざ波の音に癒され、まどろみに落ちていった。
が、急に目の前の藍色が明るくなり始めた。
濃厚な藍色は、透明性を増し、マリンブルーから水色へとその色を変化させていった。
そして、次の瞬間、白と黄色の入り混ざったまぶしく燦々(さんさん)と輝く一点の光が僕の眼孔に入って来た。
「うわっ!太陽だ。眩しい!皮膚が焼けるように熱い!」と僕は小声で叫びながら、まぶしく輝く光をさえぎるため、とっさに自分の右腕を目の前に回した。
すると、僕の体は、フワッと軽くなり、上へ上へと垂直方向に上昇を始め、僕は海から離脱し始めた。
臼(うす)に入れられ、杵(きね)で力強く叩きつけられ、粘性と弾力を身につけた、アッツアツの湯気を出している、真っ白く艶(つや)やかな大きいお餅から、ピンポン球サイズのお餅をちぎり取る時に、すーっと一本の糸が引かれるように、僕の体は糸を引きながら海から分離した。
僕のカラダは、その粘性を帯びた糸から切れ離されると、鳥の羽毛のようになった。
そして、体重は限りなくゼロに近づき、猛烈なスピードで宙をさまよい始めた。