続・幸せの方程式(23)
【 +-ゼロ=無=光 ③ アリ?】
僕はまた、意味不明なシャンカールの言葉を繰り返した。
「『不幸の海にどっぷり浸かる?やるもやらないも、僕の自由?』ですか?」と。
「そうだ。もし、ユウが一度『無から生じたワクワクとシンクロニシティで、無条件、無償、無限の幸せ』を経験すれば、世の中の法則が分かるようになるだろう。
簡単に言えば、世の中の法則は一つ。
『 +-(プラスマイナス)ゼロ=無=光 』。
これだけだ。
ところで、ユウは『アリには、働きアリとナマケアリがいる。』ということを知っているかね?」
「はい…? アリ…? 何故、突然、アリ…?」
と僕は、戸惑いながら、
「あの小さな黒い蟻(あり)のことですよね?」と尋ねた。
「そう、そのアリだ。
昔、インドに、モハマドアリというアリ好きの大学教授がいたのだよ。
モハマドアリ教授は、二つのアリの巣を見つけては、何度も何度も同じ実験を繰り返した。
実験は簡単だ。
一つのアリの巣を働きアリばかりにして、もう一つのアリの巣をナマケアリばかりにする。そうして、アリたちの作業効率がどう変化するかを観察する実験だ。
例えば、二つのアリの巣をそれぞれABと名付けよう。
Aのアリの巣にいる半分のナマケアリをBに移動し、Bのアリの巣にいる半分の働きアリをAへ移す。
つまり、Aのアリの巣は、Aの巣の働きアリとBの巣の働きアリが集まった最強の働きアリばかりの巣に。Bの巣は、Aの巣のナマケアリとBの巣のナマケアリが集まった最弱(?)のナマケアリばかりの巣になる。
モハマドアリ教授は、何度も何度もそんな実験を繰り返した。
しかし、いつまでたっても、働きアリばかりの巣にも、ナマケアリばかりの巣にもならなかった。
不思議なことに、Aの巣に集められた働きアリの半分が翌日にはナマケアリになり、Bの巣に集められたナマケアリの半分が翌日には働きアリに変わってしまう。
何度やっても、働きアリだらけの巣も、ナマケアリだらけの巣も作れず、結局、Aの巣の作業効率とBの巣の作業効率は、常に一定だったというのだよ。
つまり、『働きアリばかりではアリの巣は維持できないし、ナマケアリばかりでもアリの巣は維持できない。』と、モハマドアリ教授は結論を出した。
アリの世界もこの世の中も同じで、世の中は正反対のものが存在しないと維持できないようにできている。
プラスだけでも存在できず、マイナスだけでも存在できず、プラスだけでもマイナスだけでも存続維持できないようになっている。
だから、幸せを望めば望むほどに不幸を引き寄せてしまう。
なぜなら、幸せだけでも不幸だけでも、人生は存続維持できないからだ。」
僕は、「うーん…。ちょっと難しいような、話が飛躍しているような…。」と思ったが、シャンカールは、僕の反応を意に介さない様子だ。
「やるかやらないかは、ユウが決めることだ。誰もユウを助けられない。誰もユウに干渉できない。ユウは完全に自由だ。しかし同時に全責任を背負わなければならない。」と言ったシャンカールの言葉が心を過(よぎ)る。
「シャンカールの言葉を聴くも聴かないも、完全に僕の自由ということなのだろう…。」
僕は直感した。