幸せの方程式(31)
【 インディア ③ シャンカール 】
ガンジス川上流、静かな田舎に住むシャンカールは、僕を出迎えたが、表情一つ変えず何も語らず無言のまま僕をヨガの道場へと案内した。
シャンカールは、既に、抜き差しならない状況であることを察知していた。
僕の質問にも気づいていたようだった。
インドの夏は、うだるように暑い。
シャンカールは、20畳ほどのヨガ道場へと僕を案内した。
部屋の片隅に、小学校で使われているような小さな椅子が二つ、そして小さな机が一つ置かれている。その机上には、ティーポットとティーカップも準備されていた。
ティーポットには、シナモンの良い香りがするチャイがたっぷりと入っている。
シャンカールは、僕の状況を事前に察知し、最高のもてなしを用意してくれていた。
僕たちは無言のまま、小さく硬い椅子に座った。
シャンカールが静かに語り出す。
「ユウは、形の無いものをどれくらい認識して生きてきたのかね?」
「つまり、生きてきた時間の何分の一を非物質的なものを感じる時間に費やしてきたのかね?」
「その前にユウ自身、形の無いユウであるという認識を持ったことがあるのかい?」
「ユウは、形が無いユウであることを、知らないのか?」
シャンカールの誘導に従って、僕の「潜在意識と不幸を呑み込む」旅が始まった。
約5時間後、僕は、ゆっくりと静かに目を開けた。
「潜在意識の旅」は、終わった。
目の前にシャンカールはいない。
シャンカールを乗せていた小さな木製の椅子は、渋谷駅で主人の帰りを待つ忠犬ハチ公のように、遠くの一点を見つめながら寂しそうにジッと主人の帰りを待っている。