続・幸せの方程式(26)
【 +-ゼロ=無=光 ⑥ 再会】
僕は公園の白いベンチに腰掛けている。
周りには、二階建ての戸建て住宅が端正に並んでいるが、ひと気はなく静かだ。
また、アンミツが高速で近寄ってきた。かと思うと、いきなり僕に向かって怒りを露わにした。
「ねえ、あんた!
さっき、ここで本読んでたでしょ!
何であなたはそんなことやったのよ。
私はあなたを絶対に許さないからね。
あなたは最低。
あなたは人間失格。
私はもう二度とあなたを愛さない。
私はもう二度とあなたを信じない。
私があなたを憎もうと罵(のの)しろうと、私を批判できる人間なんて誰もいないわ。
私の怒りは正義の怒りよ!
私の恨みは正義の恨みよ!」
「アンミツは、何を言ってるんだ?」
僕は、一瞬、腹が立った。「今度は何だよ!」と言いたくなったが、その時、シャンカールの言葉が思い出された。
「全てを食べてしまいなさい。すべて、吞みこんでしまいなさい。」
僕は「今度は何だよ!」と言うのを止めて、アンミツの話に真正面から向き合った。
「私はあなたを絶対に許さない。あなたは最低。あなたは人間失格。私の怒りは正義の怒りよ!私の恨みは正義の恨みよ!」と繰り返すアンミツの言葉をそのまま受け容れ、すべてを呑み込んだ。
すると、僕の口から自分の言葉と思えない意外な言葉が漏れ出てきた。
「確かに君の言う通りだ。
言ってくれてありがとう。
僕は女性の気持ちを考えてもみなかったよ。
僕は自分の欲望で女性を見てしまった。
確かに君の言う通りだ。
見られている君の気持ちを考えてもみなかったよ。
君の言うことを聞いた方が僕は幸せになれるね。
君の助言がこれからの僕の人生にとって、素晴らしい助言になることを確信しているよ。
言ってくれてありがとう。」
するとアンミツは、タバコの煙のような白い物体に変化し、冷たい水で流されて来た真っ白い流しそうめんのようになって、僕の口と喉をスルッと通り、僕の胃袋の中に入ってた。僕のお腹が少し冷たくなった。
目の前にいたアンミツはもういない。何だか寂しく感じる。
そして、あちらの世界でのアンミツの人生に思いを馳せた。
「子どもの頃のアンミツ、小学生のアンミツ、中学生のアンミツ、高校生のアンミツ、大人のアンミツ。
彼女は、あちらの世界で裕福さを求め、ご主人と離婚した。
それが正しい選択だったかどうか、僕には分からない。
確かに彼女は、孤独を選んでしまったのかもしれない。
だが、彼女も幼い時は可愛い女の子だったのだろうし、彼女も彼女なりに色々努力して生きてきたはずだ。
彼女も辛く苦しい人生を彼女なりに一生懸命、生きてきたに違いない。
アンミツは、悪いヤツじゃない。
きっとアンミツは良いヤツだ。
もし、また、いつか出逢えたら、ゆっくりと楽しく会話できますように…。」
と、僕はアンミツの平安と幸せを祈った。
すると、赤色に小さく光る流れ星が一つ、僕の右後方から前方に向かって、キラッと流れた。