【そりゃー、嬉しいに決まってんだろっ!】
僕が小学生、コトハが幼稚園生の時、コトハが幼稚園でヒマワリの種をもらって来た。
「お兄ちゃん、タネまいて!」と幼稚園児のコトハに頼まれた僕は、庭の適当な場所にヒマワリの種を蒔いた。
あれから、もう10年。
何の手入れもしていないが、毎年、夏になるとヒマワリの花が咲き乱れる。
コトハは、静かに話を続けた。
「ヒマワリは、秋になると枯れて死んでしまう。
でも、また次の年の春に芽を出して、夏には花を咲かせる。つまり、ヒマワリは『生き続けている』の。
お兄ちゃんが、『冬になった時、ヒマワリは枯れて死んだ。』と言っても、その表現が間違っているとは言わないわ。
でも、ヒマワリはこうしてずーっと生き続ける。
来年も再来年も、またその次の年も。
そして、人もヒマワリと同じ。
つまり、人も、永遠に生き続けるの…。」
窓の外のヒマワリを見つめながら話していたコトハが、静かに振り向き、僕の目を見て続けた。
「信じられないと思う。でも、お兄ちゃんもコトちゃんも永遠に行き続ける。それが真実なの。」
コトハのまなざしは真剣だった。
だから、僕も冗談っぽく返事するのを止め、「まあ、確かに、コトちゃんの言うことも、わからない訳じゃないんだけど…。」と、静かに応えた。
すると、コトハは急に嬉しそうな表情を見せ、明るい声を出した。
「お兄ちゃん!分かったんだったら、これからはそういう前提で生きていくの!」と。
急に明るくなったコトハに驚きながら、僕は、「えっ、どういう前提?」と、コトハに訊き返した。
「だから~っ!『ずーっと、この世で行き続ける。』っていう前提で、お兄ちゃんは、今日から生きていくの!」
「はぁ?だから、何?」と言いたげな僕の気持ちを察し、コトハはそのまま話を続けた。
「お兄ちゃん、じゃあ、一つ考えて!
頭を柔らか~くして。想像するのよ~。」
と、今度は何やらニヤニヤしている。
「『これから、お兄ちゃんは、死なずにずーっと永遠に生き続けるのぉ~。』
そう思ったらお兄ちゃん、嬉しい?それとも、嬉しくない? さあ~、どっち?」
僕の心は、大きく動揺した。
心の中に、震度4くらいの揺れを感じた。
「ウ・レ・シ・ク・ナ・イ……。」
僕の心に沈黙が流れた。
さらに、暗くてイヤな感情が続いた。
「できれば、オレの人生いつか終わってもらいたい…。
永遠に生き続けるなんて疲れる…。
嫌だ…。しんどい…。」
そんな感情だった。
少なくとも、「えっ、永遠に生きられる? そりゃー、嬉しいに決まってんだろっ!」という感情は、これっぽっちも出てこなかった。
黙ってしまった僕の気持ちを察したかのように、コトハは少し低い声で、僕に尋ねた。
「あんまり、嬉しくない…よね?」
また真剣な、まなざしをしている。
僕は、「んっ?んん~…。」と、コトハの言葉を否定できずいた。
「それが、お兄ちゃんが不幸を選択して生きている証拠。
だから、これから、お兄ちゃんは『永遠に生き続ける』ことを前提にして生きるの。
そうしたら、同じ質問をされた時、お兄ちゃんはこう答えるように変わるの。
『そりゃー、嬉しいに決まってんだろっ!』って。」
僕は、心の中を全て見透かされているようなバツの悪さを感じ、言葉を出す気力を失っていた。
相変わらず、セミたちは、元気に鳴いている。
ミーン、ミー、ミー、ミー…。