【ぜーんぶ一つに繋がっている。】
コトハは、『一つ』という言葉をキーワードにしたいのかもしれない…。
僕は、頭を柔らかくして、そんなことを考え始めていた。
すると、コトハが、「それじゃあ、もう一つ質問!頭を柔らか~くして、考えてよ~。」と、僕の心を見透かすかのごとく、話を続けた。
「地球は、いくつあるでしょうか?」
「そりゃあ、一つだろ。」と僕は言いかけて、止めた。
コトハは、僕が思案し始めたことを察したのか、静かに窓の外へと視線を移した。
窓の外では、相変わらず、ヒマワリが、力強く咲いている。
僕は、頭の中で、コトハが何を言いたいのかを考えていた。
「体は一つ。でも、体の中に骨はたくさんある。地球は一つ。でも、地球の中に人はたくさんいる。
コトハは、きっと、そういうことを言いたいんだろう。
でも、だからと言って、『オレとコトハが一つ』というのは飛躍しすぎだろ!」という対応を、僕は頭の中で準備した。
すると、また僕の準備ができたことを見透かすかのようにコトハが僕の方に視線を戻し、「何となく、コトちゃんの言いたいことが分かった?」と尋ねてきた。
落ち着いた、静かな声だ。
「たぶんな。」と言いながら、僕は、アイスコーヒーを飲み直した。
「例えばね。」と、コトハは、少し真剣な表情で、ゆっくりと話し始めた。
「人間の体から、水が無くなったら、人間は、どうなると思う?」
「そりゃあ、死ぬわな。」
「じゃあ、人間の体から、酸素が無くなったら、人間は、どうなる?」
「そりゃあ、死ぬわな。」
「じゃあね。地球から水が無くなったら、どう?」
「そりゃあ、人間だけでなく、動物も植物も死ぬわな。」
「じゃあ、地球から、植物が無くなったら?」
「そりゃあ、酸素が無くなって、人間も、動物も、死ぬわな。」
コトハは、「つまり…」と言って、少し黙った。
僕は、今回は、コーヒーに口を付けるのをやめ、コトハの目を見た。
「ぜーんぶ、『一つ』に繋がっている。どちらかが死ぬと、もう一方も死んでしまう、っていうこと。言い換えると、一方が、生きるためには、他方が生きていなければならないということなの。だから、生きているということは、ぜーんぶ『一つ』に繋がっているっていうことなのよ。」
というコトハに、僕は、準備していた質問を、自信あり気に投げかけた。
「でも、だからと言って、『オレとコトちゃんが一つ』っていうのは、飛躍しすぎだろ?なぜなら、オレは、コトちゃんの体を動かせない。オレはオレ、コトちゃんはコトちゃんで、それぞれ、別の意志を持って、自由にバラバラに生きている。オレにはオレの頭があり、コトちゃんにはコトちゃんの頭がある。それぞれ、別のことを考え、別々に動いてる。だから、オレとコトちゃんは、一つではなく、二つだろ?」
「本当にそう?」と静かな笑顔で応えるコトハの目には、僕以上の自信が宿っていた。
相変わらず、セミたちは、静かにしている。