【本当にそう?】
「オレはコトちゃんの体を動かせない。だから、コトちゃんとオレは一つではなく二つだろ?」と自信を持って言った僕に、それ以上の自信を持ってコトハが応えた。
「本当にそう?
さっき、お兄ちゃん、アイスコーヒー飲んだよね?そのアイスコーヒーって、誰が作ったんだっけ?」
「はあ?コーヒーを作ったのはコトちゃんだよ。あっ、お礼言い忘れてたな。ごめん、ごめん。ありがとな。コトちゃん。」
「別にお礼は、いいんだけど…。とにかく、お兄ちゃんが、コトちゃんにコーヒーを作らせたってことよね?」
「はあ?別にオレ、コトちゃんにコーヒー持って来てくれって頼んでないぜ。」
「でも、お兄ちゃん『コーヒーでも飲んで、少し休みたい。』って、思ったでしょ?」
「まあ、そうかもしれないけど…。だから、それが何?」
「つまり、お兄ちゃんが、『コーヒー飲みたい』って思ったから、コトちゃんが体を動かしてコーヒーを持ってきた。もし、お兄ちゃんが『コーヒー飲みたい』って思わなかったら、コトちゃんは体を動かさなかったの。」と、コトハが続けた。
僕は、コトハが、何を言っているのか理解できず、しばらく「はあ~…?」と呆気にとられていた。
そして、「だから、何なの?
コトちゃんが、オレにコーヒーを作ってくれたことと、『オレとコトちゃんが一つ』っていうことと、何か関係があるっていうのか?」とコトハに尋ねた。
「何で?」と、コトハ。
相変わらず、落ち着いた、静かな口調だ。
「だから、言ったじゃん。オレとコトちゃんは、一つでなく、二つ。
何故なら、オレはコトちゃんの体を動かせないから…」と言っている途中で、僕は、言葉を詰まらせた。
自分で喋っているのに、自分に矛盾があると感じたからだ。
「『僕がコトハの体を動かせない』ことはない、ということを、コトハは、言いたい…?」
すると、コトハが、つぶやくように静かに真剣に言った。
「そうなの。お兄ちゃんがコーヒーを飲みたいと思ったから、コトちゃんの体が動いたの。
それが、現実なの。つまり、お兄ちゃんは、『思った通り』に、コトちゃんの体を動かしたっていうことなの。」
コトハは、落ち着いた様子で、僕の目をじっと見ている。
セミが、また鳴き始めた。
ミーン、ミー、ミー、ミー…。