本当の自分に出会う物語「コトちゃんはひきこもり」(10)

【あたり前で普通のこと】

 

本当の自分に出会う物語

 

ミーン、ミー、ミー、ミー…。

セミの声が、やけにうるさい。

僕の頭は混乱している。

「僕が?コトハを?『思い通りに』?動かしている?どういうこと?」

茫然としている僕に、コトハは穏やかな声でゆっくり続けた。

「逆に、コトちゃんがお兄ちゃんの体を動かしたこともあったよね?」

「えっ?そんなことあった?オレが、コトちゃんに動かされたってこと?」

「うん、そうよ。コトちゃんが小さかった時、コトちゃんよく公園でいじめられてたよね。それでお兄ちゃん、よく助けに来てくれたじゃない。」

「はあ?コトちゃんがいじめられてたら、助けに行くなんて、別に当たり前っつうか普通のことじゃん。」と、僕は、混乱していたが、力なく応えた。

すると、コトハが力強い声を出した。

「さすがお兄ちゃん!良いこと言うわ!

その当たり前で普通のことが、ぜーんぶ『一つ』っていうことなの!

当たり前で、普通だから、なかなか、そのことに気づけないのよ!」

まだ、僕は混乱している。

コトハの言葉が耳に入るのを拒もうとする自分が、自分の中のいる。

「僕が『コーヒーを飲みたい』と思ったから、コトハがコーヒーを持ってきた?

コトハがいじめられ、『助けて欲しい』と思ったから、僕がコトハを助けに来た?

表現を変えれば、僕が思った通りに、コトハの体が動き、コトハが思った通りに、僕の体が動いている。そういうことを、コトハは言いたいみたいだ。

さっき、僕は、『オレはコトちゃんの体を動かせない。だから、オレとコトちゃんが、一つっていうのは、おかしい。オレとコトちゃんは、別個な存在で、それぞれが、自由にバラバラに動いている。』と、自信を持って言った。

しかし、僕の言ったことは、間違っていたのだろうか?もしかすると、僕は、今まで、間違った常識を持っていたということなのだろうか?」

僕は、自分が否定されたように感じた。コトハの言うことを拒もうとしている自分がいる。

しかし、『僕の思った通りに、コトハが動き、コトハが思った通りに、僕が動いている。それが、現実。』

そう考えると、それだけで、何故か、胸の奥が温まるような不思議な感覚がある。

温かな両手を胸に当てたような…。

『僕が思った通りに、コトハが動き、コトハが思った通りに、僕が動いている。それが、現実。』

なぜなのかはわからない。とにかく、そのことを想像すると、肩の力が抜けるような安堵感を覚える。うるさかったセミの声も、心地よく感じる。

セミが、僕の暑さをまぎらすために鳴いてくれている…。

ミーン、ミー、ミー、ミー…。

 

 

つづく

 

 

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