続・幸せの方程式(13) 【 潜在意識 ③ こちらの世界】

浜松市 心理カウンセラー書籍 幸せ

【 潜在意識 ③ こちらの世界】

 

 

アンミツが過ぎ去ると、僕の金縛りは解けた。

 

「何だったんだ?今のは?」

 

僕は、「フーッ」と大きく深呼吸した。

 

そして、薄っぺらな写真雑誌『マンデー』を急いで閉じ、汚いものを「しっしっ」と追い払うかのように、元あったベンチの右側へとをポーンと投げた。

 

ティーシャツと半ズボン、赤いサンダル、全裸ではない、表紙のアンミツを見るのも恐ろしくなり、できるだけ目を背け、できるだけ遠くに…。

 

僕の喉は、空(から)っ空に渇いている。

 

「あー。水が飲みたい。」と僕は思った。

 

すると、ミネラルウォーターと氷が、7対3くらいの割合で入った中ジョッキサイズのグラスが、僕の右手の中に突如現れた。

 

僕は、ラクダが砂漠の中をさまよい歩き1ヶ月ぶりに緑の生い茂るオアシスにたどり着いた時、頭を丸ごと水の中に「ドボッ」と沈め、自分の鼻と口の両方から、喉とお腹に目一杯水を流し込むように、グラスの中に入った水を一気に飲み干し、

 

丸いアーモンドチョコレートサイズの氷を口の中に入れ、その氷を左側の奥歯でガリガリ噛み砕き、慌てるように「ゴクリッ」と飲み込んだ。

 

すると、一層、頭や額から汗が吹き出してきた。

 

頭や額の表面に浮き出てきた汗の雫(しずく)たちは、眉毛に沿って中心から外側へと流れ落ち、口と頬の間のほうれい線の谷間の流れを下った後、北海道の襟裳岬のように三角形に尖(とが)った下顎(したあご)から、「ポタッ。ポタッ。」と、台風並みの大雨が降った時の雨漏りのように地面に落ちて行く。

 

僕は、その汗を拭きたくなった。

 

すると、僕の左手の中に、突如黄色いヒヨコ絵柄のタオルハンカチが現れた。

 

「何だ?この世界は?」

 

僕は、「ヒヨコ絵柄のハンカチなんて、幼い女の子向けだから恥ずかしくて使えないよ。」と一瞬思ったけれど、

「背に腹は変えられない。」と思い直し、さらに吹き出てくる汗を、ヒヨコ絵柄のタオルハンカチでゴシゴシぬぐった。

 

「僕は、何をやっているんだ?

 

いつの間に水の入ったグラスが?

 

いつの間にヒヨコ絵柄のハンカチが?」

 

ふと、アンミツが発した言葉が思い出される。

 

『こちらの世界では…。』

 

「そう言えば、確かにアンミツは、そう言っていた。

 

『こちらの世界では何も隠せないのよ。純朴なお兄さん。フフッ。』と。

 

僕は、こちらの世界に来てしまったのだろうか?」

 

僕は、慌わてて、こちらの世界に来る前のことを思い出した。

 

そして、シャンカールの言葉を思い出した。

 

「ユウは潜在意識が分からない。

 

だから、ユウは、『自分で作った夢を自分で見ているという事実』が理解できないし、

 

『自分で作った現実を自分で見ているという真実』も理解できないのだよ。」

 

「確か、こちらの世界に来る前、シャンカールが、そんなことを言っていた。

 

ところで、そのシャンカールは何処へ行ったんだ?」

 

と思ったら、僕の左側50センチのところにシャンカールが突如現れた。

 

僕はビックリし、シャンカールと反対方向に体を仰(の)け反らせた。

 

「こちらの世界には、時間と空間がないのだよ。」

 

驚いている僕とは対照的に、シャンカールはニヤニヤ、悠然と笑っている。

 

「ドッキリを仕掛けられた時ってこんな感じなのかな。」と、少し正気を取り戻した僕は、意外と冷静に、心の中でそう思った。

 

「さっきは、恥ずかしかったかね?」とシャンカールに言われ、僕は恥ずかしくなり、また、うつむいた。

 

「いいじゃないか。女性に魅力を感じることは、自然なことだ。恥ずかしいことではない。美しい花よりも、女性は美しいのだから。

 

その証拠に、美しい花を背景にして、女性の写真を撮ることはあるが、

 

美しい女性を背景にして、花の写真を撮るようなことは、ないじゃないか。

 

そうだろう?」と、

 

僕には理解できない、フォローのようなフォローでないようなセリフをシャンカールは、淡々と口にする。

 

僕は、もう一度、ヒヨコ絵柄のタオルハンカチで顔の汗をゴシゴシぬぐった。

 

 

 

つづく

 

 


 

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