幸せの方程式(29)
【 インディア ① フツウ 】
ジトジトと大量の湿気を含んだ梅雨の雨が、久しぶりにようやく晴れた、6月25日、日曜日の朝。
一週間ぶりに麻里奈と一緒にブレックファーストを食べられることにウキウキし、気持ちよく目覚めた僕は「今日は久しぶりに晴れたな!夏が近いから、今日は暑くなりそうだ!」とルンルン気分で独り言をつぶやき、7部丈のブルージーンズとオレンジ色のポロシャツを着用し、白のスニーカーを履いて、いつもと同じように朝8時半に自宅を出た。
今年初めて着る7部丈ジーンズとオレンジ色のポロシャツだけが、いつもと違っていた。
麻里奈は西広島駅から歩いて10分のところにあるワンルームマンションに住んでいる。
僕は、広島駅から歩いて15分くらいの賃貸住宅。
3ヶ月前から僕は、毎週日曜日の朝8時30分に自宅を出て、8時47分広島駅発の地下鉄に乗って、9時5分に西広島駅で降り、麻里奈のワンルームマンションに行き、麻里奈と一緒にブレックファーストを食べた。
もちろん、僕が地下鉄に乗る場所は、西広島駅に着いた時、他の誰よりも早く階段を駆け上がれるよう、階段の登り口に一番近いドア付近だ。
麻里奈の家に行く日は毎週日曜日だったので、地下鉄の座席が空いていることもあったが、目当てのドアのすぐ横の座席が空いていない限り、僕はドア付近に立ち、窓の外はトンネルだけだというのに、そこから窓の外を眺めた。
その日も僕は、いつものように階段を誰よりも早く駆け上がって改札を通り、さらに階段を登り切って地上に出た。すると、七色の半円レインボーが、A街とB街、二つの街を橋渡ししていた。
「早く行って、麻里奈と一緒に虹を見よう!そして、『もしかしたら、あの虹が、僕と麻里奈を繋いでいるのかもしれないね。』って会話しちゃったりして…。」と僕は妄想を暴走させ、内心ニタニタしながら歩みを速めた。
オートロックがかかった麻里奈のマンションの玄関先にはたくさんの紫陽花(アジサイ)が咲いていた。紫と青と白が混ざった紫陽花の花と葉っぱの表面には、透明色をした昨日までの雨の雫が残っている。
僕は麻里奈に教えてもらったオートロックの暗証番号を入力し、エレベーターに乗って、いつもより2分早い9時18分に、3階の麻里奈の部屋に着いた。
「おはよう!」
僕は、麻里奈の部屋のベルを押し、鍵のかかっていないドアを開け、精一杯、明るく爽やかな声をかけて、そのまま中に入った。
麻里奈は、その時間にはドアの鍵を開けてくれていた。
「朝ごはんの支度で台所から手が離せないこともあるから、そのまま部屋に入って。」と、いつも麻里奈が言ってくれていた。
なので、僕はフツウにそのまま部屋に入った。
が、フツウでない光景を、僕は目にすることになった。