花子の不倫(16)ママが守ってくれたから

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《 前回までのあらすじ 》
花子は不倫してしまう。
結果、気持ちが不安定になり、家族関係も悪化し、アルコールや安定剤に頼るようになる。
そんなある日、ウェイトレスのコトハに出会う。
コトハは言う。
「1番しんどい孤独が『本当の自分からの孤立』なの。
本当の自分って言うのは、生まれてきた意味(ライフミッション)みたいなものなんだけど、そこから孤立してしまうと、心が病んでしまう。
ご主人さんが、ハナコさんの炊き出しボランティアを守ってくれなかったことは、花子さんを不倫させてしまうことと同じ。
もし、花子さんをこれからも孤独にさせるくらいだったら、離婚して、ハナコさんのライフワークやミッションを他の誰かに守ってもらったほうが、ハナコさんにとってシアワセかと…。」
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ライフミッションを守ってあげた?

 

「ライフワークやミッションを守ってもらうかぁ…。

確かに、そうかもねぇ…。

実は…。5年くらい前だったかなぁ?

娘が学校で虐(いじ)められちゃって、引きこもってしまったことがあったの。

それで、1年間くらいかかっちゃったんだけど、結局、また、学校に行けるようになったのよねぇ。

その時、娘が引きこもりから抜け出すきっかけになったのが、娘の言ったこと、やりたいことを、否定しないようにしたことだったのよねぇ…。

それって、娘のライフワークとかミッションを守ってあげたってことなのかなあって、今、思ったの…。」

 

そんなハナコさんが好き?

 

コトハは、20分間続けてきた無表情を解禁し、満面の笑顔を見せた。

「さすがハナコさん!それですっ!

そしたら、娘さんを守ってあげたハナコさんのことを、ご自身でも褒めてあげられるじゃないですか?」

 

「え?自分で自分を褒められるか?ってこと?

まあ、そういうことになるのかもしれないけど…。

少しは自信になったっていうか…。」

 

「はい!

それでしたら、娘さんを守ってあげたハナコさんのことは、ハナコさんも好きですよね?」

 

「娘を守ってあげた自分が好きかって?まあ、確かに、そうできた自分のことは、キライじゃないかもねぇ…」

 

「好きか嫌かのどちらかで言うと?

好きですか?」

コトハが、改めて問い直す。

 

「まあ、強いて言うなら、好きってことになるんだろうけど…。」

 

パートナーシップのシアワセ

 

「はい!

なので、ご主人さんにも、その経験をさせてあげないといけないんです。

そうしないと、ご主人さんはシアワセになれないんです。

なぜかというと、シアワセになるためには、自分のことを好きになることが必要だから。

具体的に言うと、ご主人さんは、ハナコさんを本当のハナコさんから孤立させないよう、守ってあげることでシアワセになれるっていうこと。

もうちょっと、噛み砕いて言うと、ハナコさんのライフワークやミッションを守ってあげることで、ご主人さんは自分のことを好きになれるっていうことなんです。

そして、ハナコさんのライフワークやミッションを守り抜くことが、難しければ、難しいほど、ご主人さんは、自分のことをもっと好きになれるし、もっとシアワセを感じられるっていうことなんです。

例えば、ご主人さんが、『よくオレは、ハナコを守れたなあ。

周りから、色んなことを言われたから、ハナコを守ることは本当に難しかったなあ。

でも、よく、オレできたなあ。よく、花子を信じて守り切れたなあ』

って、思うことで、ご主人さんは自分を好きになれるし、パートナーシップのシアワセを感じられるっていうことなんです…」

 

また、消えちゃった

 

その時、奥の方から、男性の声が聞こえてきた。

「コトちゃん!そろそろ時間だよ!」

 

「はい!行きます!」

 

「ハナコさん、ごめんなさい!買い出しに行く時間になっちゃったから…。また来てくださいね!」

と、コトハは今までの3倍速の早口で言葉を残し、奥の方へと消えていった。

 

「あら?また、消えちゃった。

コトちゃん、また消えちゃった…」

 

花子は、寂しさを感じながら、目の前にあったタピオカ入りの豆乳ラテを手に取り、ズズズッ〜と音が鳴るまで口の中に吸い入れた。

タピオカが、2粒だけ混ざっていたが、もう、それほど冷たくはない。

 

ママだけは

 

そして、ゴクリっと喉(のど)で音を鳴らして飲み込み、フーッと大きくため息をついた。

すると、改めてコトハの言葉が思い起こされる。

「ご主人さんが、ハナコさんの炊き出しボランティアを守らなかったことは、花子さんを不倫させてしまうことと同じ」

「もし、これからもハナコさんを孤独にさせて、不倫に陥(おとしい)れるくらいなら、離婚して、他の誰かにハナコさんを守ってもらったほうが、ハナコさんにとってシアワセ」

「娘さんを守ってあげたハナコさんのことは、ハナコさんも好きですよね?」

「ハナコさんのライフワークやミッションを他の人から守ることで、ご主人さんは自分のことを好きになれる。つまり、シアワセを感じられるっていうことなの」

 

さらに、娘のサクラが言ってくれた言葉が、ふいに思い出される。

 

「ママだけは、わかってくれたんだよねぇ。

ママだけは、信じてくれたし、応援してくれたんだよねぇ。

ママが守ってくれたから、なんとか生きてこれたっていうか…。

そうじゃなかったら、居場所がなくて、たぶん、家出(いえで)してたな」

 

上に行っても

 

また、静かに、ユリのピアノが始まった。

ジョンレノンの曲イマジン。

今度は歌も歌っている。

ピアノの音とユリの歌声が、花子のココロとカラダにしんみりと、染(し)み込んでいく。

 

花子は、グラスに残っていた生ぬるい水を飲み干し、重たかった腰を上げた。

しかし、ずいぶんと腰が軽い。

 

「コトちゃん、不思議な子… 癒やされる、ユリさんのピアノ… 本当にありがとう…。」

心からのお礼とスマイルをチップに込めて、花子はロトールを出た。

 

扉を開けると、大きな空が紅(べに)色に染められている。

 

「なんて、きれいな夕日…」

 

 

また、次回に続けますね。

今日も、最後までありがとうございました!

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