花子の不倫(17)くっさぁ〜い、おじいちゃん

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《 前回までのあらすじ 》
花子は不倫してしまう。
結果、気持ちが不安定になり、家族関係も悪化し、アルコールや安定剤に頼るようになる。
そんなある日、ロトールという喫茶店に入り、ウェイトレスのコトハに出会う。
コトハは言う。
「ご主人さんが、ハナコさんの夢やミッションを守ってくれなかったことは、花子さんを不倫させてしまうことと同じ」
「娘さんを守ってあげたハナコさんのことは、ハナコさんも好きですよね?」
「ハナコさんを他の人から守ることで、ご主人さんは自分のことを好きになれる。つまり、シアワセを感じられるっていうことなの」
そして、花子は、娘の言葉も思い出す。
「ママだけは、わかってくれた」
「ママだけは、信じてくれたし応援してくれた」
「ママが守ってくれたから生きてこれた」

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最近、なんだかしんどそうだから

 

家に帰ると、娘のサクラが先に帰っていた。

「ただいまぁ〜」と花子。

 

「あっ、お母さん? おかえり!」

サクラはエプロンをかけ、台所で料理をしている。

 

「今日はカレーで良いでしょ? ハツオもお父さんもカレーが好きだから…」

とサクラ。

「え? 夕食、作ってくれてるの?」と花子。

 

「お母さん、なんだか最近しんどそうだから… 今日は、休んでて」

 

「ありがとぉ〜。じゃあ、甘えちゃおうかな?サクラちゃんのカレー、美味しいもんねぇ」

 

「お母さん、頑張り過ぎちゃう性格なんだから、あんまり無理しないでよぉ」

 

花子の目頭(めがしら)が熱くなる。

花子は「うん。ありがとう。もう、大丈夫だから」と小声でささやき、自分の右手をサクラの右肩に乗せ、片手で軽く抱き寄せる。

くっさぁ〜い、おじいちゃん

 

その後、花子はお茶を入れ、ダイニングの椅子に腰かけて両肘をテーブルに乗せる。

さらに、両手のひらで自分の顎(あご)を受け止めながら、サクラに話しかける。

「あのさぁ〜。昔さぁ〜。ホームレスの人にボランティアしたこと覚えてる?」

 

サクラは、豚汁のようになっているカレーの具をかき混ぜながら応える。

「えっ?ホームレスのボランティア?あぁ〜!覚えてるよ?豚汁を配ったやつでしょ?」

 

「覚えてる?」

 

「そりゃあ、覚えてるよ。

あの時、匂い(におい)のキツいおじいちゃんがいてさぁ。『くっさぁ〜』って思っちゃったのよねぇ。

でも、豚汁を器によそって『どうぞっ』って渡してあげたら、『ありがとう』って、すっごい嬉しそうに笑ってくれて…

それが、子供みたいに屈託のない笑顔だったの。

だから、『くさぁ〜』って思った自分が、なんだか、悪かったなあって思えたんだよねぇ。

そのことは、不思議と鮮明に覚えてるな…でも、なんで?」

 

「いや、ちょっとね。」

 

「また、やるの?」

 

「そうねえ。おじいちゃんとおばあちゃんに迷惑かけちゃうから、もう無理かなぁ〜」

 

同情とか、憐れみとかじゃなくて

 

 

 

 

「そうなんだ。でも、私は、良いと思うよ。

あの人たちのためって言うのもあるんだろうけど、なんだか、それだと偽善っぽくって…

でも、同情とか、憐れむとか、そういうんじゃなくて、あの人たちと、実際に、生(なま)でリアルに触れ合うことで、大切なことに気づけたりするんじゃないかなあって…

さっき言ったおじいちゃんに会った時も、なんて言えば良いのかなぁ?

罪悪感っていうのかなぁ…良心の呵責っていうのかなぁ…なんだか、そういうのを感じて…。

『くっさぁ〜』って思った自分が、天狗になってるっていうか、偉そうになってるって思ったの。

それで、なんとなく、「もしかしたら、このおじいちゃん、本当はお金持ちなんじゃないの?」って、思ったの。

それなのに、わざと1番惨めな立場を選んでんじゃないの?って、直感的に思ったのよねぇ…。

 

無条件の愛の世界

 

何となくなんだけど…

このおじいちゃんは、上に立つとか、優れるとか、人に勝つとか、お金持ちになるとか…

そういうところじゃないところに、幸せとか喜びみたいなものを見いだそうとしてるんじゃないかなあって…

うん… 勝つとか負けるとか、上とか下とか、そういうんじゃなくて…

無条件の友情とか、見返りを求めない愛情とかっていうのかなぁ〜?

そういう世界で生きたくて、ホームレスっていう世界に、自分から入って行ったんじゃないかなあとかって…

 

ホームレスの人の存在価値

 

例えば、お寺のお坊さんが托鉢で、一般のお家を回るでしょ?

それって、お金を出すのは、一般の人だけど、精神的な功徳とか、仏様からのお守りとか、そういうお恵み(おめぐみ)を施すのは、お坊さんだよね?

うーん?ちがうかな?

例えば、マザーテレサも、貧困や孤独で苦しんでいる人から、何か、お恵みのようなものを得られるから、歳(年齢)を重ねても、精力的にパワフルに、慈善活動できたとか…

うーん? やっぱり、うまく説明できない…

けど、まあ、とにかく、炊き出しボランティアも、偽善とか、同情とか、憐れみとかじゃなくて、自分も、ホームレスの人から何かお恵みをいただいている、って思ってやれば、ホームレスの人の存在価値を認められることになるから、良いんじゃないかなあとかって、思ったりしたのよねぇ…」

 

「サクラちゃん、すごいね。お母さんより、いろんなこと知ってる」

 

「え?引きこもって、本、読むしかなかったから、変な知識だけは付いちゃったのかもね?」

 

「でも、それってさぁ〜。長い人生で考えたら、学校行って勉強してるより、よっぽど有益な勉強してるってことになると思うんだけどな」と花子。

 

「うん。私も、そう思ってる。っていうか、お母さんがそう言ってくれたんだよ。

お母さんがそう言ってくれたから、私は私で良いんだ。なんかみんなと違うけど、違ってて良いんだって、思えるようになったんじゃない!?」

 

「そうだったっけ?」

と花子も笑う。

 

そこに、息子のハツオが帰ってきた。

「ただいまぁ〜」

 

 

また、次回に続けますね。

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