【 やっと、分かったぁ!】
僕の部屋は、1階にある。
しかし、初めて僕の部屋に来た人は、口を揃えてこう言う。
「のび太の部屋みたいだなぁ〜〜。」
僕の部屋は二階ではないが、机の向こう側に窓があり、その窓枠は今どき珍しい木製の窓枠だ。
確かに、僕の部屋には、押し入れがある。しかし、ドラえもん用の布団はない。
また、机の引き出しを手前にスーッと開けて、ヒョイっとそこに飛び込もうものなら、間違いなく壊れるから、誰もそんな馬鹿なことはしない。
ある夏の日、そんな僕の部屋に一人の人物が突然飛び込んで来た。
「分かったぁ~!やっと分かったの~!」
僕の部屋に入ってきたのは、ドラえもんではなく、僕の妹、コトハだった。
コトハは、ずうーっと自分の部屋に引きこもっていた。
中学校で優等生だったコトハは、地元で一番の進学高校にめでたく入学したのだったが、高校生活が始まると、急に引きこもり始め、半年後にはコトハの高校生活が終わった。
精神科のお医者さんは、コトハを「うつ病」と診断したが、コトハは精神科で処方される安定剤には一切口をつけず、憂鬱な表情でいつも言う。
「何かが、違う。」
「何かが、違う。」が、コトハの口癖だった。
「何かが違う」というコトハの口癖に対して、僕も、父も、母も「何が違うんだ?」と尋ねたが、コトハは小さな声で「何が違うのかは分からない…。」と、ボソッと答えるだけだった。
そして、冴えない表情をしたまま、自分の部屋に閉じこもってしまう。そんな日が続いていた。
そんなコトハが、急に明るく大きな声を出して、僕の部屋に入ってきたのだから、僕はその人物が誰なのか、最初、分からなかった。
が、「お兄ちゃん!コトちゃん、やっと分かったのぉ~!」と言われた時に、やっと、目の前で話している人物がコトハであることに気付いた。
「なんだっ!コトちゃんだったのか?どうした、コトちゃん?」と、僕は言ったが、僕の言葉に聞く耳を持つコトハではなかった。
「お兄ちゃん!なんで、人が不幸になってしまうのかが分かったの!
そして、みんな幸せになれることがわかったの!」
コトハは、興奮冷めやらない様子だ。
「不幸の原因は罪悪感。つまり、罪悪感があるから、人は不幸になるの!罪悪感っていうのは、『私は悪いことをしてしまった』って、心の中で思ってるっていうことなんだけど、心の中で『私は悪いことをしてしまった』って思っているから、悪いことが起こるの!」と一気に続けた。
僕は、「ん…???
コトちゃんの言ってること、よく分からないんだけど…。オレ、別に何か悪いことをした訳でもないし…。」と、興奮して話すコトハを落ち着かせようと少し冷めた口調で答えた。
すると、コトハは「そう言うと思ってました!」と言わんばかりに間髪入れず、僕に変な質問を投げかけた。
「じゃあ、お兄ちゃん、聞くけどさ〜あ。過去1年間にお兄ちゃんがやってきたこと、ぜんぶ、コトちゃんに話して!例えば、セクシュアリティな内容とか。」と。
僕は、一瞬「えっ?!」と戸惑った。
その一瞬を見逃さなかったコトハが言う。
「その『えっ?!』が罪悪感なの!そして、その罪悪感があるから、お兄ちゃんは幸せを感じられないの!」。
自信に満ちた、力強い言葉だ。
僕は、胸を裂かれるような痛みを感じた。