本当の自分に出会う物語「コトちゃんはひきこもり」(19)

【殺される?】

 

本当の自分に出会う物語

 

僕とコトハの間にどれくらいの沈黙があっただろうか?

 

ひさかたぶりの兄妹げんかは、「だから! お兄ちゃんとユリさんが一つじゃないなんて、おかしいのよ!」 というコトハの一言で、あっけなく幕を閉じた。

 

僕とコトハが沈黙している間、セミたちが兄妹げんかの熱を一生懸命冷ましてくれた。

コトハは熱が冷めたことを確認し、静かに語り始めた。 怒りの感情は、もうない。 幾分哀しみの感情は残っているようだった。

「とにかくお兄ちゃんとユリさんは、一つになっていないとおかしいの。でも、お兄ちゃんの罪悪感が、不幸を選択して別れてしまった。 そのことをお兄ちゃんに分かってもらいたいの。」

「もう、終わったことだし…。」 と、僕は応える。

弱々しい僕の言葉とは対照的に、 コトハの言葉は静かだが強さを兼ね備えていた。 瞬発力は無いが静かに延々と走り続けて行く、マラソンランナーのような強さだ。

「分かってる。もう、ユリさんのことは諦めるしかない。でも今のままだと、お兄ちゃんは同じことを繰り返してしまう。新しい彼女のために、気持ちを整理しておかなければならないの。」

僕は「オレもう、彼女つくる気ないし…。」と、相変わらず力なさげに応えたが、僕の声が聴こえないかのように、コトハはさらに続ける。向かい風に吹き付けられても、物ともせずに走り続けるランナーだ。

「罪悪感に従って不幸を選択してしまうというのは、ある意味仕方のないことなの。罪悪感に逆らって、愛と幸せを選択するのは、とても危険なことだから。」

とコトハが言った時、 僕の意識は「危険」という言葉に向かった。

「危険?」

「うん。愛と幸せを選択すると、殺される…。」

「殺される?」

「そう。コトちゃんは、マイケルが好きだった。コトちゃんは、マイケルを愛していた。マイケルは、本当の愛に生きた。そして、私たちに幸せと感動を与えた。

そして…。殺された。」

「殺されたわけじゃないだろ?」と、僕は反論した。

「もちろんマイケルは整形を望んだ。でも整形による精神面、健康面への影響について、マイケルは知らされていなかった。きっと『まったく安全だ』と聴かされていた。でも、まったく安全な整形手術なんてない…。」

小学生の頃から、コトハはマイケルジャクソンが好きだった。コトハは勝手にボクの部屋に入ってきて、マイケルのCDをよく聴いていた。特にコトハのお気に入りは「 Beat it !」。かなり早口で、テンポの速い曲だ。その高音でハイテンポな曲を、コトハはとても上手に歌い踊った。しかも英語で。本当に見事だった。

コトハが小学5年の時、クラスのみんなが一芸を披露し合う学芸会が開催された。そこで、コトハはマイケルの「 Beat it !」を披露した。ムーンウォークを混ぜて、コトハが「 Beat it !」を歌った時、生徒たちはもちろん先生や父兄も興奮し、コトハに大喝采を浴びせた。

コトハは、話を続けた。

「マイケルは、愛と幸せに生きた。そして、多くの人に感動を与えた。でも、みんながマイケルを好きになったわけじゃなかった。マイケルのお金を狙う人もいた。嫉妬する人もいた。嫌う人もいた。憎しみを抱く人も。

そして、殺したいと思う人も…。」

僕は、あまり腑に落ちないまま、「そうかなぁ。」と疑い半分で聴いていた。

しかし次のコトハの言葉が、僕を納得させた。

「お兄ちゃんの好きなジョンレノンもそうよね…。」

セミの声が小さくなった。

ミー…。

 

 

つづく

 

 

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