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本当の自分に出会う物語「コトちゃんはひきこもり」(20)

【処刑された人の歌】

「お兄ちゃんの好きな、ジョンレノンもそうよね。ジョンレノンは、なぜ、殺されなきゃならなかったの?」

「確かに…。もしジョンが今もこの世に生きてくれていたら、世界はもっと平和になっていただろうに。本当に残念な人を世界は失ってしまった。」と僕は想像し、ジョンの死を悼んだ。

コトハは静かに続ける。

「そういう意味では、ユリさんにも、共通点があるの。」

「ユリちゃんにも共通点?」

「そうよ。ユリさん、バッハが好きよね?」

「おお。『人の望みよ。喜びよ。』とかよく弾いてたな。 それと『マタイ受難曲が好きだ』って言ってた。オレも聴いたけどオレには、いまいちだったなぁ。何だかお葬式みたいで暗い曲が多くて。」と僕が言うと、「お兄ちゃんは、何も知らないのね…。」と言いたげな口調で、コトハが返してきた。

「そりゃそうでしょ。殺された人の歌なんだから。」

「えっ!? 殺された人の歌?」

僕は少し驚きながら、コトハに聞き返した。

「そうよ。別に、無理に知らなくてもいいけど。バッハの曲は、ほとんど張り付けにされて処刑された人の曲よ。」

「張り付けにされて、処刑された人?」

コトハの言葉に、さらに僕の意識が向かう。

「そう。イエスキリストっていう名前の。その人は手と足を釘で打ち付けられ、頭にトゲの冠をかぶせられ、胸に槍やりを刺され、十字架に張り付けにされた。見せしめのため極刑よ。それが、イエスキリスト。」

「そんなひどい殺され方をしたのか?だから、明るい歌になるわけないんだな。」と、僕は、少し、神妙に応じた。

「そのイエスキリストも愛と幸せを唱えた人よ。愛と幸せを唱えた人は殺される。ガンジーやマルチンルーサーキングも、愛と幸せを唱えて暗殺された。それくらい愛や幸せを選択して生きるって言うことは、危険を伴うことなの。

だから、お兄ちゃんが、不幸を選択したとしても仕方がない。」

僕は心を静かにして、イエスキリスト、ガンジー、マルチンルーサーキングを悼んだ。

「でも、それにしてもコトちゃんの言ってることは、大げさな感じがするんだけど。」と僕が小声で言うと、

「そうよ。ちょっと大げさに言ってみた。お兄ちゃんをかばうために。愛と幸せを選択することが簡単じゃないって、お兄ちゃんに分かってもらえればそれでいいの。そのために、ちょっと大袈裟に言っちゃった。」と言って、僕をからかうように微笑んだ。

僕の顔にも、少し、笑顔が戻った。

セミたちも、一緒に、笑ってくれた。

ミミミミミミミミ。

 

 

つづく