本当の自分に出会う物語「コトちゃんはひきこもり」(24)

本当の自分に出会う物語

【コトハの影響を受けた僕は】

 

本当の自分に出会う物語

 

「アイスコーヒー。もう一杯持ってくるね。」と言ったきり、コトハはなかなか戻ってこなかった。が、僕にとってそれは好ましい状況だった。とにかく、少し一人で考えたかった。

 

コトハの影響を受けた僕は、「たぶん、僕が一人で考えたいと思っているから、コトハは戻ってこないのだろう。」と考えるようになっていた。

 

僕はユリと一ヶ月前に別れた。僕は「マイホーム、海外旅行、新車という、経済力がないとダメだ。」と思うようになっていた。

 

コトハの言う通り、僕は「自分に価値がない。自分は完璧じゃない。」と思っていた。でも、何で、そんな風に思ってしまったのだろうか?

 

コトハは、「ケアレスウィスパーが僕にウソを信じ込ませた。ケアレスウィスパーが『僕は価値がない。』『僕の純粋さや優しさも完璧じゃない。』というウソを僕に信じ込ませた。僕が、そのウソを信じたから、僕は、ユリと別れるという不幸を選択した。」と言う。

 

そんな話、信じられない。

 

でも、確かにユリは言っていた。

 

「別に、いいのよ。お金が足りない時は、私がバイトするから大丈夫。別に贅沢しなくても、ノリくんの優しさや純粋さが私は好きだから。」と。

 

それなのに、なぜ、僕はユリの言葉を受け容れなかったのだろうか?

 

なぜ、僕はユリの言葉を信じなかったのだろうか?

 

僕は、ユリの言葉を信じる代わりに罪悪感とケアレスウィスパーのウソを信じた。つまり、僕はユリを捨てた。そして、その代わりに罪悪感とケアレスウィスパーを選んだ。

 

確かにコトハが言う通り、本当の僕はただユリと楽しい会話をしたかった。

 

本当の僕はマイホームが欲しかったわけではなかった。

 

本当の僕は海外旅行に行きたかったわけでもなかった。

 

本当の僕はユリがいてくれるだけで、十分幸せだった。

 

贅沢を言うなら、ウィンナーペペロンチーノと一本の缶ビール、そしてギターがあれば、それ以上の贅沢は、僕には必要なかった。

 

なぜ、僕は、自分の気持ちを正直に伝えなかったのだろうか?

 

なんで、僕は、本当の自分を伝えようとしなかったのだろうか?

 

なぜ、僕は「コソコソコソコソ」と囁くケアレスウィスパーの声を信じ、ユリを裏切ってしまったのだろうか?

 

こんなことを考えても、もう、別れてしまったのだから仕方が無いか…。

 

と思いながらも、ユリを信じなかったことと、正直な気持ち、素直な気持ちを、ユリに伝えなかったことが悔やまれた。

 

 

つづく