続・ 幸せ の 方程式 (11)
【 潜在意識 ① アンミツ(餡蜜) 】
僕は公園の白いベンチに腰掛けている。
周りには、二階建ての戸建て住宅が端正に並んでいるが、ひと気はなく静かだ。
公園の中の、ブランコにも、ジャングルジムにも、砂場にも、子どもはいない。
もちろん、大人も。
ふと、右側に目を落とすと、「マンデー」というA4サイズの薄っぺらい雑誌がベンチの上に置いてある。
「マンデー」の表紙には、ストレートパーマをあてたような漆黒のロングヘア、30歳代半ばの色白な女性が、ブルージーンズの半ズボン、白のティーシャツ、ヒールのある真っ赤なサンダルという、夏の軽装でこちらを見つめている。
厚みのある週刊少年漫画雑誌のグラビアアイドルとは、少し雰囲気が違う、どことなく違和感を漂わせている女性だ。
僕には、半ズボン、ティーシャツ、赤のサンダルがこの女性には似合わないように思えた。
何気なく1ページ目を開くと、高級西洋ホテルのスイートルームのようなゴージャス感漂うクリーム色の部屋で、真っ白いレースカーテンが飾られている高さ2メートル幅3メートルくらいの大きな窓ガラスに向かい、
漆黒のロングヘア、真っ赤なサンダルを履いた、後ろ向きの女性が、全裸姿で背中をこちらに向け、窓の外に向かってまっすぐに立ち、右手を軽く持ち上げ白のレースカーテンを5本の指でそっと軽くつまみ、顔を左側に精一杯回旋させて、僕の左側約2メートルくらいのところに視線を投げかけている。
「確か、この人は、アンミツとかって言うセクシー女優じゃなかったっけ?」と自分の記憶を思い出そうと思った時、一人の人が公園に入って来た。
その人が入ってきた入り口は、僕の場所からは、一番遠い入り口だったので、「僕が『マンデー』を見ていたことは分からないだろう。」と内心ホッとしながら、僕は薄っぺらな写真雑誌『マンデー』を閉じ、ベンチの右側へ戻そうとした。
が、体が動かない。
金縛りにあったように、カラダが凍り付いている。
僕のカラダは、ロダン作の銅像「考える人」のように固まってしまった。