続・幸せの方程式(15)
【 潜在意識⑤ 猛禽(もうきん) 】
「お酒を呑んで酔っ払っているのだろうか?」
その人物は、身長180cmくらい。体型からして男のようだが、足元は完全にフラついている。
よく見ると、その男が黒いのではなく、黒い物体が、その男の周りを取り囲んでいるようだ。
「猛禽(カラス)?」
約20羽の真っ黒な猛禽が、カーカーと声を張り上げながら彼を取り巻いている。
まるで彼をイジメているようだ。
通常、猛禽は、ネコが車に引かれると、ロバの耳のように聴覚を澄ませ、イヌの鼻にも負けないくらいに鋭い嗅覚でネコの死を嗅(か)ぎつけ、道路の脇に跳ね飛ばされ置き去りにされているネコの屍(しかばね)を目がけ、最短距離で一直線に全速力で飛んで来る。
猛禽が現場に到着するまでにかかる時間は、救急救命士の運転する救急車が現場に到着するまでの約1/ 100 だ。
猛スピードでネコの屍に到着した猛禽は、その脇1メートルくらいのところを人間の運転する車が横切って行くにも関わらず、そこから逃げない。
猛禽は、「人間の乗る車は、ネコの屍を避けて通る習性がある」ことを知恵深く知っているからだ。
それほどに頭の良い猛禽だから、ネコの体の中で、もっとも美味しい場所が何処かということも当然、熟知している。
なので、ネコの屍に一番最初に到着した猛禽は、胃、腸、肝臓というもっとも美味しい内臓ホルモンを我が食材にするために、迷うことなく脇目も振らず、フォークのように尖ったクチバシを「ブサッ!」とネコの肋骨の内部に突き刺す。
お腹を空かせた人間が、白いナプキンを首に掛け、だ液を口の中に大量に分泌させながら、茹でたてナポリタンにフォークを刺し、「クルックルッ」と小刻みに手首を回し、赤オレンジ色の麺をフォークの先端に絡(から)みつかせるように、
フォークのようなクチバシをネコの肋骨の内部に突き刺した猛禽も、「クルックルッ」と自分の首を小刻みに回し、血のついた麺状の胃や腸や肝臓を、自らのクチバシに絡みつかせ、ネコの肋骨奥深くから引き抜く。
そして、その猛禽は、「遠くから見られると金魚(きんぎょ)の糞(ふん)みたいでカッコ悪いんだけどなあ。」と恥ずかしさを感じながらも、
人間がつけ麺を2本の箸で摘まみ上げ、左手で持つお碗(わん)のカツオダシ麺汁(めんつゆ)に、その麺を浸そうとする直前みたいな宙ぶらりんの状態で、
内臓ホルモンをクチバシにくわえたまま飛び立ち、他の猛禽の目に付かない安全な場所まで遠ざかってから、新鮮な最高級食材に舌つづみを打つ。
一方、日頃の訓練と経験が足りず、10分遅れで到着した二番手以降の猛禽たちは、一番美味しい内臓ホルモンが既に奪われてしまっていることに失望しながらも、「内臓の次に美味しい部分、すなわち頭蓋骨の中に眠っている脳味噌を、自分の空きっ腹に放り込まなければ気がすまない!」と意気込み、道路工事で使うツルハシのように尖った自分のクチバシを、ダチョウの卵よりも硬いネコの頭蓋骨に、「カツンッ!カツンッ!」と何度も何度も打ちつける。
そうして、頭蓋骨が「パカッ!」と割れると、カニ好きの人間がカニの殻を割いて殻にこびりついているカニ味噌まで舐め尽くすかのように、猛禽もネコの頭蓋骨にこびりついている脳味噌の全てを舐め尽くすようにして食べる。
まさに、そのようなことが目の前のヨロヨロと歩く男に行われている。