花子の不倫(14)離婚した方がよろしいのでは

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《 前回までのあらすじ 》
花子は不倫してしまう。
その結果、気持ちが不安定になり、家族関係も悪化し、アルコールや安定剤に頼るようになる。
そんなある日、ウェイトレスのコトハに出会う。
花子はコトハに「貧困で苦しんでいる人、居場所を失ってしまった人、孤独になってしまった人を助けたい。それが、自分の夢だった」ことを話す。
さらに、炊き出しボランティアで出会った1人の美しい女性を思い出す。

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私も同じ

 

店内では、静かにピアノの音色が流れている。

曲はショパン作『雨だれの前奏曲(プレリュード)』。

 

花子は、下を向き1分間ほど黙った。

そして、肩を落としボソッと呟(つぶや)く。

 

「今の私も、同じね…」と。

 

「そうですね。花子さんにも凜(りん)とした潔(いさぎよ)さや、美しさがありますから…。」

と言ったきり、コトハもしばらく黙った。

 

「えっ?」

意外な返事に驚き、花子は少し顔を上げたが、コトハは相変わらず無表情だ。

しかし、目の奥にはエネルギーが満ちている。

悲しそうな顔をして、花子に同情している訳ではない。

かと言って、笑顔で花子を励ます訳でもない。

ただ、平然と立っているだけだが、何事にも動じないズッシリとしたオーラを放っている。

 

花子は、

「私が、綺麗だとか美しいだとか、そういうことを言ってるんじゃなくて、私も、その女性と同じ状況に陥っちゃたんだなあって思ったのよ…。

どこかで、歯車が狂ってしまって、どこかで、ボタンを掛け違えてしまって、気がついたら、悪いことをして、気持ちが落ち着かなくなって、コントロールできなくなって…。

そういうところが、彼女と同じような気がしたの。

だから、コトちゃんが言うような綺麗とか凛とした美しさとか、そういうところが同じっていう意味なんじゃなくて…。」

と言おうと思った。

 

しかし、コトハの目は、「そんなことは百も承知ですよ」と語っていた。

それで、花子は言うのをやめた。

 

みっともない?

 

すると、コトハが静かに口を開いた。

「ところで、それっきり、炊き出しのボランティアには、行かれてないんですか?」

 

「あ?そうね…。

実は、その時、子どもたちも連れて行ってたの。

貧困で苦しんでいる人を、自分の目で見て、実際に触れ合ってみれば、子どもたちも何かを感じて、人生の勉強になるんじゃないかなあ?って思ったの…。

実際、子どもたちも、色んなことを感じ、色んなことを考えたみたいだった。

貧困、格差、社会の矛盾という現実を目の当たりにして、「どうして、食べ物がないの?」「どうして、おうちがないの?」って質問したりしてた…。

私には、それは、子どもたちにとって良いことだと思ったんだけどね…。

でも、娘がうっかり、お父さんとお母さん、つまり、お舅(しゅうと)さんとお姑(しゅうとめ)さんに、そのことを話しちゃった。

『お家(うち)がない人に、ご飯をあげてきたんだよ』って。

そしたら、お舅さんもお姑さんも、怒っちゃって。

『なんで、子どもに、そんな、みっともないことをさせるんだ!』とか、『恥ずかしいことさせないで!』とか、『汚ない人に近寄らせないで!』とかって、さんざん、叱られちゃった…。

だから、もう、行けないのよねぇ〜」

 

「そうだったんですかぁ〜。それで、ご主人さんは何と?」

 

「主人も、あまり良い顔はしなかった。

『もうちょっと、常識とか人目とかを考えろよ』って…」

 

離婚したほうがよろしいのでは

 

「そうなんですか…。

それなら、離婚する方が良いかもしれないですね」

コトハは、相変わらず、無表情のまま静かな声で答える。

 

「え??? リ・コ・ン?」と、目をパチクリさせて、花子が問い直す。

 

「はい。離婚したほうがよろしいんじゃないかと…」

相変わらず、コトハの顔に表情はない。

しかし、目の力は強くなっている。

 

「それって、ハッキリ言って虐め(いじめ)ですから。

いま、家族の中で虐めを行う人が増えてるんです。家族なのに平気で仲間はずれにしちゃう。

そんな人が増えてる。

そして、虐められた人は、家族の中で孤立。

それなのに『自分のせいだ』とか、『自分が悪い』とかって言って、自分で自分をさらに傷つけちゃう。

なんでそんなことするのかって言うと、虐められる人は、優しい人だから…。

平和のためなら、自分の犠牲をも厭(いと)わない人だから…。

そうすることで、家族の平和が守られると思い込んでるからなの。

でも、それって、とっても苦しいし、本当にしんどい。家族の平和のためであったとしても、孤独を味わいながら、自己否定してしまうと、いつかココロが壊れちゃう。

虐められて、孤独になって、さらに自分で自分を傷つけて、そんなことに耐えられる人なんていないの。

だから、それを続けていたらココロの病気になっちゃう。

 

まるで警察犬のように

 

そしてココロが病んだら、不倫の誘惑がやってくる。

ココロが病んでるメンヘラが、不倫の誘惑に勝てるはずはない。

誘惑する人は、そういうことを直感的によく知っているの。

そういう人は、まるで警察犬のように、鋭い嗅覚でメンヘラを嗅ぎつけて誘惑する。

誘惑する人も、ココロが病んでるんだけど、ココロが病むと、そんな動物的本能が覚醒されるみたいなの。

 

なんか、話が横道にそれちゃったかな?

とにかく、家族の中での孤独に耐えられるほど、人はそんなに強くないの。

家族のために自分を否定し続けられるほど、人は強くないの。

だから、花子さんが不倫したんじゃないの。

 

ご主人さんが花子さんを不倫させたの…」

 

 

 

 

今日も、最後までありがとうございました!

また、次回に続けますね。

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