・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《 前回までのあらすじ 》
花子は不倫してしまう。
その結果、気持ちが不安定になり、家族関係も悪化し、アルコールや安定剤に頼るようになる。
そんなある日、ウェイトレスのコトハに出会う。
コトハは言う。
「離婚する方が良いかもしれないですね。それはいじめなので。
家族の中で孤独になって、それでもなお『自分のせいだ』とか『自分が悪い』とかって言って、自分で自分をさらに傷つけて、それに耐えられる人なんていない。
だから、ご主人さんがハナコさんを不倫させたの。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは違うような…
「え? 離婚?
主人が私を不倫させた?
私が不倫したのではなくて?
主人が私を不倫させた?
だから、離婚したほうが良い?
うーん?
どうかなあ?
なんだか、それは違うような気がするんだけど…。
やっぱり、悪いのは私だし…。」
花子には、コトハが言った「離婚されたほうがよろしいのでは?」
の意味が理解できない。
「はい。だから、さきほどもお話ししたんですけどぉ…。
優しい人は、そうやって『自分のせいだ』とか『自分が悪い』とかって言って、自分で自分をさらに傷つけちゃって、さらに自分を孤独にしちゃうんで…。」
「ん?あぁ…。そういうこと?
え〜?でもぉ〜…。やっぱり…。
不倫した自分が悪いって、思うのはフツウでしょ?」
そんなハナコが好きで結婚した
「はい。それが、ハナコさんの優しさだし、責任感だし、正義感。
それが、ハナコさんの素晴らしいところなんですけど…。
でも、やっぱり、そればっかりではないっていうことも…。
ちょっと考えてみてもらえたらというか…。
例えばですけどぉ…。
もし、ハナコさんがホームレスの炊き出しボランティアのことで、お舅さんやお姑さんに怒られた時に、ご主人さんがこんな風に言っていたとしたら、どうでしょう?
『オヤジとオフクロに怒られた?
それはひどいなあぁ〜。オヤジもオフクロも、そんな感情的にならなくても…。
ハナコだって、みんなに賛同されるなんて思ってないよなぁ?
それでも、自分のミッション(使命)みたいなものを感じているから、偽善だって言われたり、批判的なことを言われたり、時には蔑(さげす)まれたりすることもあるんだろうけど、それでも、困っている人の力になりたいって思って、やってんのになぁ…。
なんで、オヤジもオフクロも、そういうハナコの気持ちを分かろうともしないで、人目だとか、恥ずかしいだとか、そんな表面的なことばっか言って、ケチつけるんだろうなあ…。
まあ、いいよ。
オヤジとオフクロには、俺から言っておくから、ハナコは、自分の夢とか信念とかを大事にして欲しい。
俺は、そんなハナコが好きで、結婚したんだから…』
もし、ご主人さんがそんな風に言っていたとしても、ハナコさんは不倫したと思いますか?」
音のない真空の時間
花子はドキッとして、ココロにチクリとした痛みを感じた。
夫のウミオは、昔、よく「俺はそういう花子が好きだから」と言ってくれていたからだった。
「確かに…。昔は…。
『そういう花子が好きだから』って、言ってくれていたな…。」
そんな過去を、花子は不意に思い出し、頭の中が一瞬、真っ白になった。
そして、音のない真空の時間が、10秒間流れた。
静かに流れていた、ユリのピアノ、「雨だれの前奏曲(プレリュード)」が終わる。
本当の自分からの孤立
コトハは、花子が正気に戻ったことを、動物的な直感で読み取ったのち、ゆっくりと静かに話し始めた。
1秒間に5文字くらいのスピードで…。
相変わらず、顔に表情はない。
「はい。パートナーから孤立するって、本当につらいことなんです。
でも、もっとつらい孤立があるんです…。」
「パートナーから孤立するよりも、もっとつらい孤立?」
と、正気に戻った花子も聞き返す。
「はい。もっとも精神的にしんどい孤独感が、『本当の自分からの孤立』なんです。
本当の自分って言うのは、夢とか信念とか、大切にしている価値観など、生まれてきた意味(ライフミッション)みたいなものなんですけど、そこから孤立して、人生を生きてしまうと、心が病んでしまうんです…。
もちろん、友達から虐(いじ)められたりする孤独も、本当にツライことなんですけど…。
それでも、もし、本当の自分と繋がって、本当の自分から孤立していなければ、友達から孤立してしまったとしても忍耐できたり、その悲しさとか悔しさというマイナスな経験を、プラスに変えて乗り越えて行けるくらいの強さを、人間は持っているんです…。
でも、ライフミッション(使命)とか、ライフワーク(天職)とかから孤立してしまうと、未来に希望を見いだせなくなって、絶望してしまう…。
しかも、本当の自分との繋がりを守ってくれるはずのパートナーが、それを守ってくれなかった場合には、その絶望は、とってもとっても大きくなっちゃう…。
例えば、生きる希望を失ったり、夢や希望が見えなくなったり、生きるのがイヤになったり…。
さらには、『自分なんかが生きてたって、何の役にも立たない』とか、『自分なんかいない方が良い』とかっていう気持ちで、心の中がいっぱいいっぱいになっちゃって、動くことすらできなくなっちゃう…。
矢も楯もたまらず
そんな絶望をココロの中に潜在的に抱(かか)えているところに、不倫とか恋愛とかの誘惑が来ちゃったら、人は、どうすることもできなくなっちゃうの…。
不倫や恋愛に絆(ほだ)されて、ココロがトキメイちゃったら、矢も楯もたまらず、不倫や恋愛という感情の渦に呑み込まれちゃう。
それが人間なの。
それがヒトの弱さなの。
例えるなら、操(あやつ)り人形が、糸で誰かに操られるように、ココロが、自分以外の何者かに操られるようになっちゃうの。
そしたら、自分の力では、そこから抜け出せなくなってしまう…。
つまり、パートナーに守ってもらえず、本当の自分と繋がれなくなってしまうことは、不倫とか恋愛とか、もしくはクスリとかアルコールとかの誘惑に墜(お)ちてしまうこととほぼ同一なの。
だから、ご主人さんが、ハナコさんの炊き出しボランティアを、守ってくれなかったことは、花子さんを不倫させてしまうこととほぼ同じ…。
そして、もし、花子さんをこれからも孤独にさせて絶望させて、不倫やらアルコールやらの誘惑に陥(おとしい)れるくらいだったら、離婚して、ハナコさんのライフワークやライフミッションを他の誰かに守ってもらったほうが、ハナコさんにとって幸せになるというか…。」
コトハは、そこまで話して、静かに口を閉じた。
今日も、最後までありがとうございました!
また、次回に続けますね。
ご感想やご質問がありましたら、お気軽にご返信くださいませ。
あなたのお幸せを祈っております。