【人は永遠に生き続ける。】
頭の中が真っ白になった僕は、コトハが目の前にいることを忘れ、なにやら一人で考えごとを始めた。
そう言われれば、今まで、「幸せになろう」なんて考えたことがなかったかもしれない…。
幸せを求めること自体、
はかない夢…、
手に入れられないもの…、
不可能なもの…、
そう思っていたのかもしれない…。
とりあえず、今、それなりにお金を稼いで…、
それなりに生活ができて…、
それなりに頑張って…、
友達と酒を飲んで…、
それで、十分じゃないか…、
そう思っていた。
というより、そう自分に言い聞かせてきた…。
もし、コトハに「それが幸せ?」って訊かれたら、「そう思うしかないだろ?それが、大人っていうもんだよ。」と答えるんだろうな、と、僕はいつの間にか、コトハの質問を先回りして考えるようになっていた。
もしかしたら、コトハの言う通り、僕は幸せになるという選択肢を捨て、不幸を選択して生きてきた、ということなのだろうか…。
僕は、なんだか一人で、そんな考えごとを始めていた。
そして、思わず言ってしまった。
「確かに、オレは幸せを選択しなかったのかもしれないな…。」と。
すると、突然、コトハの笑顔が目の前に現れた。
「だから~!。お兄ちゃん、ちょっと私の話に付き合ってよ!」
と、コトハがニコニコ笑っている。
コトハが目の前にいたことを忘れ、本音を漏らしてしまった僕は、恥ずかしさを覚え、「6歳も年下の妹に本音を言ってしまった…。」と、後悔した。
しかし、そんな僕の気持ちを察する様子もなく、コトハは話を続ける。
「まず、お兄ちゃんに分かってもらわないといけないことは…。
『人は永遠に生き続ける。』っていうことなの!」
「はぁ?」と、僕は、あっけに取られた。
そして、とっさに、
「コトハは、頭がおかしくなったのだろうか?
いや、きっと、変な宗教にハマってしまったに違いない。」と、思った。
と、同時に、本音を漏らした恥ずかしさを忘れ、冷静さを取り戻した。
「コトちゃん、何か変な宗教に入ったんだろう?
今まで、死ななかった人間は一人もいないだぜ。
コトちゃんは、何歳まで生きると思ってんだよ。
仮にコトちゃんが、永遠に生きるとしても、オレがあと100年以上生きることは、絶対にないんだぜ。」
しかし、コトハは落ち着いた口調で応える。
「確かに、お兄ちゃんの言っていることは間違いじゃない。でも、肉体の死は魂の死ではないの。
例えば…。
そこのヒマワリを見て。」
と、窓の外に見えるヒマワリを指差した。
庭には、50本くらいのヒマワリが、真っ青な夏空と白い入道雲を背景にして、乱雑だが力強く咲いている。
その時、セミたちが、「ミーン、ミー、ミー、ミー!」と、大きい声で鳴き始めた。