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《 前回までのあらすじ 》
(2人の子どもを持つ母親)花子は、スーパーでパートをしている。
そこで、7つ年下の太郎に出会い、太郎に恋愛感情を抱いてしまう。
そして、太郎をお茶に誘ってしまうが、自分の気持ちは浮気なのではなく本気なのだと、自分に言い聞かせてしまう。
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もっと元気づけたい
太郎は、ほうじ茶ラテを、ほぼ飲み終えている。
30個ほど入っていた、黒く柔からなタピオカは、レンゲのような大きいスプーンで、すべて拾いあげられ、もう、カップの中には、残っていない。
「美味しかった?」と花子。
「はい。まあ。」と、太郎は、そこそこ満足そうに応える。
花子は、ゲームと太郎を肯定することで、太郎の心を開くことに成功し、気持ちを高揚させていた。
そして、「もっと太郎を元気づけたい」と思うようになっていた。
と同時に、心の中で、「私は、純粋な気持ちで、太郎くんを元気づけているのよね? 決して、不純な気持ちで太郎くんの心を開いているのではないよね?」と懸命に自分自身に確認を取っている。
名 案
その時、ふと、さらに太郎を勇気づける「名案」が浮かんだ。
「そうだ! 太郎くんに何かの役に立たせてあげて、 そのことにお礼してあげればいいんだ!」と。
そして、花子は、一瞬のうちに「太郎に息子のゲーム機を処分させる計画」を企(くわだ)てる。
花子の胸は、再び、ソワソワ・ドキドキしている。
計画実行
さきほどのゲームの会話からは、まだ、20秒ほどしか経過していなかったので、花子は「でもねぇ〜」と切り出した。
「息子は、部活に夢中で、もう、ゲームはやらないんだよねぇ。
遊び終わったゲームとかって、 太郎くんは、どうしてるの?」
太郎が、
「だいたい、中古ショップで買い取ってもらってますよ。
うん百円程度にしかならないっすけど。
ゴミの分別とかも面倒なので、買い取ってもらう方がラクっすよ。」
と応える。
「あっ、そう。
でも、私、中古屋さんに持って行くのが、どうも苦手で…。
あの独特の雰囲気っていうのかなぁ…。」
「そうっすよね。分かりますよ。
あのアニメのフィギュアとかが置いてある、オタクっぽい雰囲気って、普通の人には、なんか入りにくいっすよね。」
と太郎は、相変わらず、花子の話に素直に乗ってくれる。
「いやいや、太郎くんがオタクなわけじゃなくて…。
それに、私、オタクって言われてるような草食系男子が、キライじゃないし…。」
と、花子は「キライじゃない」と発した言葉が、太郎のことを好きだと告白してしまった言葉なのか、純粋に、太郎を肯定したくて発した言葉なのかが、分からなくなり、花子は、さらに、ハラハラ・ドキドキしてしまったが、そのまま続けた。
「たぶん、太郎くんがこの店に入りにくかったのと同じっていうか…。
あっ!
じゃあ、もしよかったら、息子のゲームを、太郎くん、もらってくれない?
そしたら、少しは太郎くんのお小遣いにもなるでしょ。
私も、中古屋さんに行かなくて助かるし…。」
計略にハマる太郎
すると、太郎は、何の疑いもなく、素直に冷静に応える。
「別に良いっすよ。
何かのついでの時に持って行けば、全然、大丈夫なんで。」
あっけなく、太郎が花子の計略にはまってくれたことが、花子に自信を与えたのか、花子は、再び、軽率で危険な提案をしてしまう。
「確か太郎くん、火曜日お休みだよね。
私、火曜日は早番で、仕事が早く終わるから、その時に、太郎くん家(ち)に持って行っても良い?」
と。
アドレス交換とアポイントメント
花子は、
「しまった!
私、また、なんてこと言ってしまったんだろう?
今のは撤回しなきゃ!?」
と、自分が言ったことに恥ずかしさを覚え、危うい提案を撤回しようとしたが、この店を誘った時と同じく、あまりにあっさり、太郎が、
「全然、大丈夫っすよ」と、それを承諾してしまったので、花子は、撤回の言葉を挟むこともできず、結局、太郎とメールアドレスを交換し、来週のアポイントまで、取ってしまう。
そして、花子は、残っていたアイスラテを飲み干し、改めて、火照(ほて)った体を冷やして、気持ちを落ち着けた。
ごくフツウの会社の同僚
その時、2人のほうじ茶ラテは飲み干された。
花子が亀田珈琲に入った口実が、「タピオカラテを飲む」ことだったので、その目的を済ませると、もう、2人には、店内に残る理由がなかった。
なので、花子は「じゃあ、行こうか?」と太郎に声をかけて、女子たちの笑い声で賑わう亀田珈琲店から出る。
そして、
「ほうじ茶ラテ美味しかったね。 お疲れ様!また、明日ね!」
と、あえて、冷静を装い、ごくフツウの会社の同僚のフリをして太郎と別れた。
花子が、自分自身に「私が太郎くんを誘った動機は、不純な動機でなく、純粋な動機だったのだ」と言い聞かせるためにも、花子は、そうしなければならなかった。
不純ではない純粋な愛情
しかし、花子のココロは混乱している。
自分が平常心を失っていることは明らかだった。
「私、やっぱり、おかしい。
このままじゃ、まずいかも。
私、どうしちゃったんだろう?
メールまで、交換しちゃった。
そして、来週の火曜日に…、
私は…、
太郎くんの家に行く…。」
そのことに、胸をときめかせている事実を、もう、花子には否定できなかった。
つまり、恋愛感情を抱いていることは、紛れもない事実だった。
そして、
「これは、不純な恋愛感情ではない。純粋な恋愛愛情なのだ。」
と正当化をすることしか、天罰から免れる方法はないような気持ちになっていた。
さらに、それは同時に、今までの夫への愛情を否定することにもなっていく。
また次回に続けますね。
よかったら、引き続きお付き合いくださいませ。