【お兄ちゃんのカラダはいくつある?】
「お兄ちゃんには、もう一つ、基礎知識を学んでもらわなきゃならないのよね~。」
アイスコーヒーを、僕に手渡しながら、コトハが言う。
「お兄ちゃんもコトちゃんも、時間軸では、永遠だということは、分かったわよね?」
僕は、「まあ、分かったことにするかな。」と、ストローでアイスコーヒーをかき回しながら、適当な返事をした。
「今度は、空間も、永遠ということ。つまり…。」と言って、コトハは、黙った。
「つまり、何?」と、アイスコーヒーをストローで吸い込みながら、僕が適当に返事をすると、コトハは、勇気を振り絞るかのようにして、真剣な表情で、静かに声を出した。
「あのね…。お兄ちゃんとコトちゃんは一つなの。」
突拍子な答えに、僕は鼻からコーヒーを吹き出し咳(せ)き込んでしまった。
しかし、そんな僕に「大丈夫?お兄ちゃん?」なんて同情する気はさらさらないという調子で、コトハは「お兄ちゃんが、コトちゃんの話を、いい加減に聴くからよ!」と言って、僕に、裸のボックスティッシュを投げた。
男の部屋だから、ティッシュボックスにオシャレなカバーなどは、付いていない。
僕は、白色のティーシャツに飛び散ったコーヒーをティッシュで拭きながら、「鼻、イッテエっつうの!」と少し、怒ったフリをした。
しかし、コトハは、容赦なく、「基礎知識の講義」を続ける。
「例えば、お兄ちゃんの体はいくつある?」
「一つに、決まってんだろ。」
「本当に?」
「おー。コトちゃん、今度は、何が言いたいだ?」と、僕が、しょうがねえ奴だなと言わんばかりの口調で応えると、コトハは、僕の気持ちなど関係ないという態度で、質問を続けた。
「じゃあ、聴くけど、お兄ちゃんの体には、いくつ骨がある?」
「骨は、いっぱいあるさ。何個あるかは知らないけど。」
「じゃあ、お兄ちゃんの体は、いっぱいあるってことよね。」
僕は、「あのなあ、コトちゃん。そういうのを屁理屈っていうんだよ。子どものなぞなぞじゃねえんだろ?」と応えながらも、頭を柔らか~くする準備を始めていた。
「コトハのやつ、今度は、何が言いたいんだ?」
突然、セミたちが鳴きやんだ。