花子の不倫(21)ニューヨークから逃げ出した女性

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《 前回までのあらすじ 》
花子は太郎と不倫してしまう。
そして、気持ちが不安定になり家族関係も悪化し、アルコールや安定剤に頼ることになる。
が、喫茶店のウェイトレス「コトハ」に出会ったことで、太郎への気持ちは消えていく。
そして5年ぶりに、子どもたちと共に炊き出しボランティアを行う。
そこで、花子は赤茶色のコートをきていた女性と再会する。

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7つ星ホテル

 

 

ハァー、ハッ、カツッ、カツッ。

スミレは、暗く静かな螺旋(らせん)階段を、一目散に駆け下りている。

アメリカ・ニューヨークにある、7つ星ホテルの非常階段で…。

 

ハァー、ハッ、カツッ、カツッ。

スミレは、恐怖におののき、息を切らし、ある者から逃げていた。

スミレの冷や汗は、白い湯気(ゆげ)になって、体中(からだぢゅう)の毛穴から蒸発している。

 

ある者の正体は分からない。

しかし、早く逃げなければ殺されてしまう。

知ってはならない秘密を知ってしまったからだ。

 

10年前、スミレはマディという女性ロック歌手のスタイリストになった。

スミレの奇抜なファッションセンスは、マディを際立たせ、世界ナンバーワンアーティストへと押し上げた。

 

或る日、マディはそんなスミレを、7つ星ホテルでのシークレット(秘密の)パーティに誘った。

「今度の金曜日に最高のパーティがあるんだけど、行かない? 他の誰にも喋っちゃいけない、シークレットパーティなんだけどね…。」と影のある笑顔で尋ねた。

スミレは、緊張やプレッシャー、ストレスに押しつぶされそうな日々を過ごしていたので、12月13日という不吉な日であることに一抹の不安を感じながらも、その恐怖心を0.1(ゼロコンマイチ)秒でかき消し、「イカした男と一夜を愉しめるなら、秘密のほうが安心ね!」と、怪しげな笑顔で快諾した。

 

13日金曜日22時

 

しかし、13日金曜日22時に始まったパーティは想定外だった。

それは地獄だった。

 

酒と薬に酔っ払った狂人たちが、気味の悪い笑みを浮かべ、人間のやることとは思えないことをやっている。

「ヒヒヒ」とも「エヘヘ」とも聞こえる笑い声を出しながら、あり得ない物を喰い、あり得ない物を飲んでいる。

 

それは、スミレが10歳の時、日本の寺で見た地獄絵図そのものだった。

気の狂った人間(と呼びたくない生物)が、他人の不幸を嘲笑し、他人の征服に歓喜し、優越感に浸って快感を覚えている。

 

もちろん、今は、学校でも、会社でも、家庭でも、虐めが日常茶飯事になっているが、良心の呵責や理性が少しは存在している。

しかし、このパーティには、理性や良心の呵責といった白いものが完全にかき消され、人間の黒い欲求のみを、酒と薬で増幅させ、完全解放していた。

それが、このパーティの目的なのだから致し方ないのだが、人を虐げることに、なんの躊躇もない黒い生き物たちが、気味の悪い笑みを浮かべながら、あり得ない物を呑み、あり得ない物を喰べている。

 

世界の頂上

 

そんな光景を見たスミレは、お腹にあるもののすべてを、トイレで吐き出してしまった。

 

これが、世界最高峰の場所だった。

世界の頂上は天国ではなかった。

 

頂上にまで上り詰めれば、そこには浄土が待っていると思っていた。

しかし、それは幻想だった。

この世界の頂上は地獄だったのだ。

 

ニューヨーク空港

 

スミレは、愕然として、絶望した。

そして、とてつもない恐怖心に襲われ始めた。

早くここから逃げ出さなければ殺される、という恐怖を感じるようになった。

 

スミレは、冷や汗を蒸発させながら、50階の階段を一気に駆け降り、ホテルの外へ出た。

そして、右手を大きく挙げてタクシーに乗りこみ、真夜中のニューヨーク空港へ直行した。

 

羽田空港

 

翌日、スミレは奇跡的に、羽田空港までたどり着けたが、怖くてホテルにチェックインできない。

今は、ネットカフェでも身分証を提示しなければならない。

ある者たちは、世界を牛耳っている権力者たちだから、もし、身分証を提示したら、すぐに居場所がバレてしまう。

そして、あっという間に捕まってしまうだろう。

彼らにとって、煙(けむ)たい人間を拉致して処分してしまうことくらい朝飯前なのだ。

それくらいのことは、スミレもよく分かっていた。

それで、しばらく、駅の地下で野宿した。

 

あの地獄の情景が目に焼き付いている間は、何の食欲も湧かなかったから、食べられないことは、苦にならなかった。

しかし、さすがに、5日が過ぎ、寒さも身にしみて、体がエネルギーを欲するようになってきた。

そんな時に、同じ駅で野宿していたホームレスから「炊き出しに行かないか?うまいぞ。」と誘われたのだった。

 

聖母ハナコ

 

スミレは、生まれて初めて炊き出しに行った。

そこで、笑顔の綺麗な美しい女性に出会った。

優しく暖かな笑みと一緒に、温かなご飯、温かな豚汁を提供してくれる女性は、白く輝いていた。

まるで、聖母だった。

 

スミレは、まるで体を温めるために、ストーブに近づくように、聖母の近くに行って腰掛けた。

近くにいるだけで、安心し、心と体が暖められるようだった。

 

そして、湯気の出る豚汁をフーフーしながら、口に含ませた。

「美味しい…。体があったまる…。」

 

スミレは、本物の味噌の味を初めて知った。

「味噌って、こんなにコクがあって美味しいものだったんだ」

と、生まれて初めて知った。

そして、御飯の甘み、ジャガイモの甘み、ニンジンの甘み、タマネギの甘み、豆腐の甘みをかみしめた。

 

そして、「こんなに美味しい御飯、初めてかも」と、言葉にした瞬間、緊張感が一気に緩み、止めどなく涙が溢(あふ)れ出した。

 

想定外

 

その時、再び、想定外のことが起こった。

聖母が自分を抱きしめてくれている。

聖母が、このみすぼらしく貧しい、劣った人間を、暖かな胸で包むように抱きしめている。

お風呂にも入っていないし、歯も磨いていなかったのに…。

しかし、聖母は、そんな匂いを毛嫌いする様子を微塵も見せず、ただ無言でスミレを抱きしめ、一緒に悲しみを抱え涙を流している。

 

スミレには信じられなかった。

そんな人間がこの世に存在していることは、スミレにとって想定外のことだった。

この世界に天国はないと絶望していたスミレは、ホームレスの集まる公園で聖母と天国とを見た。

 

 

今日も、最後までありがとうございました!

また、次回に続けますね。

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